こんばんは。
仕事でイオンクロマトグラフィーに触れる機会が増えており、検量線の引き方やメンテナンスについても覚えていかなくてはなりません。前職でもイオンクロマトグラフィーで測定していましたが、メンテナンスは業者任せで、分析も少し変わった方法で目的成分が1つ出て、ベースラインの乱れがない綺麗な試料だったため、ピークの引き方に苦労がありませんでした。
今回はイオンクロマトグラフィー(陰イオンを想定してます。)についての備忘録日記を綴ります。
装置の仕組み
現在は様々な機能が搭載された機種がたくさんあると思いますが、単純なイオンクロマトグラフィーの構成について説明いたします。

溶離液
溶離液は人間でいう血液みたいな役割で、カラムや検出器へ試料を運び、溶出時間や検出感度の調整に関与します。以下に役割をまとめます。
- 試料と一緒にカラムや検出器など物理的に接触が必要なところに流れます。
- カラムの溶出時間を調整(溶離液の濃度を調整すると、溶出時間が変化します。)。
- クロマトグラムのベースラインを低くする(検出器に感度の低い物質を流すことで、分析成分の感度を際立たせる。)。

送液ポンプ
人間の心臓みたいなもので、溶離液が流れる原動力です。
送液ポンプは滑らかに溶離液を流すかがポイントになります。その理由は脈動があると、ベースラインのノイズが乱れ、定量下限値の上昇に関係します。
装置立ち上げ時にポンプの異音などチェックすることが大切です。

サンプル導入部
試料を吸い上げて、切り替えバルブ(外から見るとチューブが沢山刺さった部品)を介して、送液ラインに試料を導入します。

カラム
試料の分析種を識別するための部品で、カラム内の充填剤が異なる化学種との相互作用を起こし、分析対象成分を分離する役割を果たします。
障害物競争では、選手の特性(体重、身長、筋力など)が同じだと、スタートからゴールまでのタイムが似通った成績になるはずです。カラムも内部の充填剤が試料物質の障害物となって、カラム出口でゴールしたものは、同じ物質同士になるようなイメージです。

サプレッサー(ない場合もあります)
これは絶対ないと測定できない訳ではありませんが、検出器感度を高める上で一般的に使われているのではないでしょうか。
サプレッサーは溶離液の感度を落とし、測定物質の感度を高めるための装置です。

検出器(電気伝導度)
純水は電気が流れにくい(電気伝導度が低い)です。そんな純水にイオン性のものが混入すると、流れやすくなります。
例え話になりますが、ある川の流れている水が全て純水と考えて、ゴール地点に直行する方向に一定の電流を流すとしましょう。川の水が常に純水なら電流値は一定です。しかし、とあるタイミングで醤油を流し込むと、今まで一定の電流が流れていたのが、醤油が到達した瞬間だけ電流がたくさん流れることになります。




ピークの拾い方(面積)
測定が完了したら、クロマトグラムからピーク面積(もしくは高さ)を求めなくてはなりません。ベースラインが綺麗で、ピークの分離度が良い状態ならピークの立ち上がりと立ち下がりに沿って引いてしまえば良いです。しかし、現実はそんな甘くないこともありますので、私が経験したピークをメインに引き方をまとめます。
ピーク同士が重なっている状態
分離が悪く、ピーク同士の間(谷)がベースラインから浮いている状態です。
重なったピークの境界線をベースラインまで、おろしてピークを分けます。


ベースラインが波打ってる状態
妨害成分や低濃度だとクロマトグラムを拡大するのが影響するのか、ベースラインが大きく波打っている状態です。
波打ったベースラインに合わせてピークを引きます。

ピークに関してはJIS K 0127にも記載されているため参照していただければと思います。
検量線について
検出器の応答値と既知濃度(標準液)の関係から、基本的に一次関数を作り、試料を測定した際の応答値を、その一時関数に当てはめて濃度を算出するためのものです。ここでは検量線を作成する時の、検討する部分をまとめます。
決定係数
決定係数というのは一時関数では、標準液の応答値と既知濃度との関係性が良好かどうかを示すものです。装置とかで検量線を引くと、R2という文字を見ると思いますが、それが決定係数です。
決定係数は0.99以上が望ましいが、分析目的に応じて適切に設定してください。
標準液
標準液は測定の目的によって変わってきますが、一般的に等間隔の濃度(例えば、1mg/L、2mg/L、4mg/L、8mg/L…と倍にしていく)にします。
注意点として濃度範囲が極端に広いと決定係数が良くなるため、試料濃度に合わせた範囲で引くことです。


メンテナンスについて
イオンクロマトグラフィーで一般的なメンテナンス箇所は、送液ポンプとカラムではないでしょうか?あまり詳しくありませんが、説明できる範囲で綴りたいと思います。
送液ポンプ
如何に脈動のない応答(ベースラインのノイズ)が求められるため、ポンプが滑らかに動いてくれるように定期的に汚れの清掃やグリスアップします。
頻度に関しては、測定頻度やどのような試料にもよりますが、私の経験では、懸濁物が全くないきれいな試料を週に4~5回程度、1回当たりのサンプル数が10検体程度で年1回メンテンナンスしてました。この使い方では、年1回のメンテナンスで問題なく運用できました。
カラム
カラムにはガードカラムと分離カラムの2つ取り付けられていると思われます。確認も含めて、分析種の仕分けを行うのは分離カラムの方です。分離カラムの導入前にガードカラムを取り付けておくことで、余計な汚れを取り除いています。
メンテナンスは一般的にガードカラムと分離カラムを個別に取り付けて、使用するカラムの説明書に従った溶剤等で洗浄します。私はどのカラムも逆洗を行い、液も決まったものを使用するのかと勘違いしていました。
- 使用しているカラムの取り扱い説明書に従う。
→充填剤の劣化度合に影響が出る。 - 逆洗は当たり前ではない。
→取り扱い説明書を確認。 - 分離カラムの洗浄は必要最低限に行う。
→劣化を促進させる可能性があり、最終手段という発想にする。やるならガードカラム。 - EDTAは電気伝導度検出器を破壊する。
→EDTAは重金属の汚れを洗浄するのに使用されますが、洗浄後は純水や溶離液で十分に流す。
まとめ
イオンクロマトグラフィーの基本構成からピークの拾い方、検量線の作成、メンテナンスまで、一連の流れを整理しました。本記事では特に 測定時のポイント や トラブルシューティング を交えながら、実際の運用に役立つ情報を共有しました。
重要なポイントとして:
- 溶離液 や 送液ポンプ の役割を理解し、適切なメンテナンスを行うことで分析の安定性が向上。
- カラム の仕組みを把握し、ガードカラムを活用することでカラム寿命を延ばす工夫が可能。
- 検量線の作成 では決定係数(R²)の目標値を適切に設定し、試料濃度に応じた範囲で標準液を選定。
- メンテナンス の重要性を再確認し、特に送液ポンプやカラムの管理が分析結果の再現性を左右する。
今後も装置の運用を続ける中で、新たな知見が得られるかと思います。本記事を基に、より良い分析環境を構築し、精度の高い測定を目指していきましょう!
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