水質分析ではリンの測定はCODに次いで頻繁に行われます。
リン分析にはリン酸イオンをそのまま測定する方法、加水分解性リンを測定する方法、リン全体を測定するがあります。
今回はどの過程で共通するモリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法について、イラストを交えて分析操作や注意事項、発色の話を説明します。
概要
分析の対象となるリン酸イオンを発色剤に取り込み、還元することでモリブデン青が生成します。
生成したモリブデン青を吸光度測定し分析値を算出する流れとなっています。
作業手順
試料採取
栓付きのメスシリンダーを用意し、その中に試料を適量加えて水で25 mlに定容します。

なお、分析で使用する水は日本工業規格(JIS K 0557)に規定するA3の水を使用します。
※試料の適量とは、リン酸イオン(以下、PO43-)が2.5~75 μgを含有する量です。
発色操作
① モリブデン酸アンモニウム-アスコルビン酸混合溶液を2 ml加えます。

② ①のメスシリンダーに栓をして振り混ぜた後、20~40℃で約15分間放置します。

測定
吸光光度計の測定用セルに発色した試料を入れ、波長880 nm付近の吸光度を測定します。

別に水25 mlを測り取ってから発色操作と測定を行い(空試験)、試料の測定結果を補正します。

補足事項
モリブデン酸アンモニウム溶液について
以下に成分と役割を記載します。
① 七モリブデン酸六アンモニウム四水和物 6 g → 発色剤
② ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(Ⅲ)酸二カリウム三水和物 0.24 g → アンチモンによる発色感度向上
③ 硫酸(2+1) 120 ml → 試料の溶解や還元反応条件を助長
④ アミド硫酸アンモニウム 5 g → 亜硝酸イオンの妨害除去(従って亜硝酸イオンの妨害影響がない場合は省略可)
調整時に上記の試薬の添加順を間違えると、発色に影響を与えます。
添加順序 : ①七モリブデン酸六アンモニウム四水和物(6 g)とビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(Ⅲ)酸二カリウム三水和物(0.24 g)を約300 mlの水に溶かす。②硫酸(2+1)(120 ml)を加え、③アミド硫酸アンモニウム(5 g)を溶かした後、④水で500 mlに定容します。



留意事項
- 5価のヒ素はリン酸イオンと同様に発色するため、還元剤で3価のヒ素に還元させます。
- 塩化物イオン及び硫酸イオンは40 g/L程度、共存しても妨害とならないが、アンモニウムイオン及びカリウムの存在下では濁りが生じ妨害となります。
- 亜硝酸イオンが7 mg以上存在する試料では、その分に合わせて別にアミド硫酸アンモニウム溶液を追加します。
- 3価の鉄は約10 mg以上で発色を妨害します。
- リン酸塩が懸濁物として含む試料では、15分経過しても徐々に吸光度が増加します。
- リン酸イオンの濃度が低い場合、試料とモリブデン酸アンモニウム-アスコルビン酸混合溶液の量を増やして発色させ、ジイソブチルケトン(DIBK)で抽出すれば濃縮します。
モリブデン酸とリン酸の反応について私が学んだ内容をイメージ化して説明します。
構造についてモリブデン酸は正八面体、リン酸イオンは正四面体になってます。

反応の際、12個のモリブデン酸の中心にリン酸が収まる状態(モリブドリン酸)になります。

モリブドリン酸は黄色に発色しますが、12個のモリブデンの内いくつかを酸化数 +6 から +5 に還元することで青色に発色するそうです。

ちなみに妨害成分となるSn(Ⅱ)、Pb(Ⅱ)、Bi(Ⅲ)、Ba、Sb(Ⅲ)と2000ppm以上のFe(Ⅲ)は、リン酸が入るべきスペースに入り、タングステン酸イオンはモリブデン酸と同様の構造になっており、リン酸を取り込んでしまいます。
まとめ
モリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法の分析操作は、大きく分けると適量採取 → 発色操作 → 吸光光度測定の3段階となります。
しかし発色液のモリブデン酸アンモニウム溶液を調整する際に試薬の添加順序を誤ったり、妨害成分による同様の発色や濁りで測定に影響を与える可能性を考慮した分析が重要になってきます。
分析で異変が起こった場合は、試薬調整方法の確認やこの記事の留意事項などを再検討してみてください。

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